イタリアに来てから、ソプラノの先生にずっと習っていました。
言葉が分からない外国人も見捨てずに教えてくれる、熱心な先生だったと思います。
ただ、数年習っていて決定的に「これ以上は習えない」と思うことに直面しました。
それは、高音の出し方を教えられないということ。
先生は高いパートを歌うソプラノ歌手で、小さい時から問題なく高い声が出せるタイプだったのですね。
一方で私はとっても苦手……
5年間習っても、高い音が出にくい問題を解決できませんでした。
私はイタリアの劇場で働く合唱歌手になりたくて各地のオーディションを受けています。
ですが、高い音が出ないことがいつもネック。
先生に高い声をレッスンして欲しいとお願いしても
「今日は疲れているから、あなたの高い声は聴きたくない」
とのことで、先生もサジを投げてしまっていました。
先生も人間です。
教えられないこととか、相性があると思います。
本人がものすごく簡単にクリアしたことは、他の人には教えられないのだと思いました。
最大の転機は、先生がとある都市の音楽院の先生になったこと。
先生の力で音楽院に合格させてもらいました。
先生にも合唱で働きたいことは伝えていて、音楽院の入試を突破したら高い声のレッスンもしてもらう約束をしていました。
ところが……
音楽院に入った途端、先生はレッスンのやる気を失ってしまったのです。
それどころか、
「あなたが高い音が出る曲歌ったら良い点が取れないから、学校に持ってこないで」
「この役とこの役は〇〇先生が得意な役だから、歌っちゃだめ」
と、他の先生の顔色やまだ新しい学年が始まったばかりだというのに得点のことばかりを気にするようになってしまったのです。
発声練習もするけど何もアドバイスなく、機械みたいに終わり。
レッスンではすでに歌える曲しか聞きたがらない。
すぐに「これは得点にならない」
……プライベートの時も問題はありましたが、熱心に教えてくれていただけに「音楽院の先生」となってしまった途端、人が変わってしまって驚きました。
プライベートのレッスンは熱心に教えないと生徒がやめてしまいますが、
- 音楽院の先生だと固定の給料がもらえる
- 他の先生よりも良い点数を自分の生徒にとらせたい
という点で、新しいことを教えるやる気を失ってしまったのでしょう。
友人からも
「音楽院に入る前は良い先生だったのに、入った途端出席のサインだけをさせてレッスンをしない先生がいる」
という噂は聞いていましたが……
まさか自分の、5年間も習っていた先生が、「音楽院の先生」になった瞬間にそうなってしまったことにショックを受けました。
もちろん生徒思いの良い先生もいますし、音楽院の先生が皆そうだとは言いません。
ただ申し訳ないのですが、これ以上今の先生に習っていても「私の目標達成にはムダ」になってしまうと判断し、新しい先生を探すことに決めました。
そんな絶望の中、電話やメールで励ましてくれたのがコレペティトールの彼・Marmuseでした。
4年前からレッスン・試験・コンクールの伴奏に来てくれていたり、個人的にもよくメールをくれていたりした彼。
「よく相談に乗ってくれる一番仲の良い友人」
くらいに考えていました。
良くない事の後には良い事が起こる……というのは本当のことで。
とても大事だった先生との決別を考えた時、「伴奏者」「共演者」「音楽面のコーチ」という立場だった彼と急接近し、付き合うことになりました。
なかなかご縁がなくて未だに新しい歌の先生を見つけられていないのですが……
彼がいつも良い声で見本を歌ってくれることから、レッスンをお願いしました。
最初は「僕は歌手じゃないから教えられないよ」と渋っていた彼ですが……なんとかお願いしてレッスンをしてもらい始めたところ、大ビンゴ!
日本でもイタリアでも見つけられなかった、理想の教師像だったのです。
7つの声楽を学ぶ上で理想の教師像
18年間声楽を勉強してきて思うのは、以下の7つだと思います。
- 弟子ができなくても諦めずに教えてくれる
- 弟子ができなくても怒鳴らない
- 弟子が達成したい目的を一緒に目指してくれる
- できない時に何が問題なのかを一緒に考えてくれる
- 発声や発音に関する知識が豊富で、分かりやすい説明をしてくれる
- 上手くいった時に、弟子が自分でも再現できるように的確なフィードバックをくれる
- 計画的に新しいことを教えてくれる
Marmuseは確かに歌手ではなくてピアニストなのですが、この条件がすべてマッチしていました。
教えられる技術や知識はもちろん、人格者である必要もありますね……。
「本当に良い先生(恩師)に出会うと自分も先生を目指したくなる」
とはよく言ったものですが、私も「弟子を取りたい」と思ったことは一回もなかったのですが、彼のような指導ができるようになりたいと思うほどです。
1.弟子ができなくても諦めずに教えてくれる
この点に関しては、イタリアで最初に習ったソプラノの先生も悪くなかったと思います。
「言葉が分からない生徒への指導も諦めない」という姿勢はありました。
残念ながらイタリアには「Bravo Bravo!良いね~!」とだけ言って、言葉ができない外国人相手にはろくに何も教えない先生も少なからずいるので……
イタリアに限らず、日本で習った先生にも
「君は脳みそが小さすぎるから、教えても何もよくならない。これ以上は教えられない。」
と言われたことがあります。
その時はショックすぎて泣きましたが、その数時間後に
「それでも僕のレッスンを続けたかったら、次回から〇千円値上げ。」
とメールが来ていて、今思い返すとちょっと面白いのですが(笑)
残念ながら歌は、一瞬で魔法のように歌が上手くなるのは不可能だと思います。
身体の使い方・筋肉の使い方など習慣の問題があり、それを変えるのには時間が掛かります。
器用な生徒や悪い癖が習慣化していない生徒は簡単かもしれませんが、中には時間が掛かる生徒もいます。
どんな生徒でも、すぐにできなくても「できるようになるまで一緒に二人三脚をしてくれる」ことが、大切です。
2.弟子ができなくても怒鳴らない
日本でもイタリアでも、怒る先生っていますよね……
最初に習ったソプラノの先生は、いわゆる怒る先生でした。
それはもう、ガンガンと。
しかも怒り方が
「どうして同じ日本人なのに、〇〇みたいに歌えないの?」
「どうして私が5年間も教えたのに、上手く歌えないの?」
という感情的なもの……。
1で述べた「言葉が分からない外国人相手にも熱心な指導をしてくれる」という点でずっと習っていたのですが、すっかり委縮してしまいました。
彼女から離れると決めた時に、
「あぁ、これよくなかったんだな」
と思いました。
レッスンでは「いつも完璧に歌わなければならない」というプレッシャーが重かったです。
もちろんプロを目指す以上、「完璧」を目指す必要はあります。
でも、それが「ブロック」「緊張」「ストレス」になってしまう場合は、歌に悪影響。
リラックスをしないと声は響きません。
3.弟子が達成したい目的を一緒に目指してくれる
オペラ歌手として活躍できる、オーディションに受かる、コンクールで賞を取る、音楽で仕事ができるようになる……
これらはものすごく狭き門で、努力はもちろん、ものすごい幸運も必要です。
先生の力ではなく、弟子が自分で切り開くものです。
というのも、オーディションやコンクールなどで歌うのは弟子自身であり、先生が歌うわけではないからです。
でも、先生がサポートをして自信をつけてくれるのはとても大切なこと。
私の場合は音楽を仕事にしたいので、「歌劇場の合唱団のオーディションに受かりたい」ということです。
そのために必要なことは
- 高い音が出せるようになる
- ボリュームのある声が出せるようになる
- 発声を安定させる
ということです。
ただ、ソプラノの先生の目標は「音楽院でいい成績をとらせる」ことだったため、
- 高い音が出ない曲は禁止
- 声が小さいのだから、バロックものを中心に歌う
- ある程度はすでに歌えるのだから、これ以上の発声指導はもうしない
という指導方法に、音楽院入学後はなってしまいました。
(「声が小さい=古いもの、バロックものを歌う」というのはとても間違いだと思います。これについてはまた別の記事で語ります)
話し合ったうえでも目的に合った指導をしてもらえないなら、目標到達のためのサポートをしてくれる先生を別に探すしかないと思います。
4.できない時に何が問題なのかを一緒に考えてくれる
歌の指導で一番難しいのは、相手の身体の中が見えないことです。
また、身体の筋肉や感覚も一人ひとり異なります。
生徒に何か指導をしても問題を解決できなかったとき、何が原因なのかを一緒に考えて想像してくれる先生は理想的です。
「あなたの声の出し方は違う。何か変えなさい」
「私はあなたと違ってこの問題はないから、分からない」
と言われて終わり、という経験をしました。
教えられないなら他の先生を紹介する、というのもありだとは思うのですが……そういう先生に限って「他の先生に習うことは絶対に許さないタイプ」の先生が多いイメージです。
5.発声や発音に関する知識が豊富で、分かりやすい説明をしてくれる
4で説明したように、「生徒ができない時に何が原因なのかを考えて想像してくれる」という共感力の上で大事なのが、問題解決のための指導ができることです。
指導をするには、知識と経験が必要です。
説明方法の分かりやすさもありますが、先生との相性も関係します。
なかなか自分にぴったりな人を見つけるのは難しいですよね……
私は具体的な説明をしてくれる先生のほうが分かりやすいのですが、説明よりもイメージのほうがいいという人もいます。
いずれにせよ、生徒の問題に対して問題解決のための引き出しがあるかどうかは大切です。
6.上手くいった時に、弟子が自分でも再現できるように的確なフィードバックをくれる
生徒がレッスン中にうまく行ったとき、先生は「今の声が良かった!」と言ってくれますよね。
でも大切なのは、生徒が自分でも「良い声」を再現できるようになることです。
「今の声が良かったのは、リラックスできてたから」
「今〇〇ができてたよ」
「分からなかった?じゃあもう一回やってみよう」
「一回前のほうが良かったかな」
など観察した上で、具体的なアドバイスをしてくれるのが大切です。
7.計画的に新しいことを教えてくれる
Marmuseのレッスンで一番良いと思った点は、まさにここです!
毎回違う発声練習、段階を追った指導をしてくれます。
できるようになるまで同じ事を繰り返すことも必要……ですが、「次のステップに行くためにこのハードルをクリアする」など指導が具体的です。
すごい小さな進歩ですが、毎回のレッスンで得られる満足度が高く、歌を勉強する意欲を高めてくれます。
彼の指導方法を、このブログで紹介していきたいと思います!
まとめ
少し今まで習った先生のグチが多くなってしまい、申し訳ありません……(;^ω^)
とはいえ、先生も人間です。
「理想の先生」「完璧な先生」を探すのは、そもそも無理な話……ではあります。
恋愛で完璧な恋人を求められないのと同じですね。
あちこち色んな先生を同時に試すと混乱してしまう(みんな身体が違う以上、教え方が違うため)のでおすすめはできません。
ですが、自分で「違う」と感じたら、離れてみるのも大切かと思います。
このブログは私がいいと思ったことを人のため、未来の私のために残す計画からできています。
一人でも悩んでいる人のお役に立ちますように……♪